1月27日土曜日に本屋ルヌガンガさんで、『アートと人類学の共創-空き家・もの・こと・記憶』の刊行記念イベントが行われました。当日飛び入りもあわせて無事満員御礼でした。
この本は、2018年から足掛け5年にわたって続けられてきた、高松市塩江町でのアーティストと文化人類学者による調査、活動をまとめた学術書です。特に、新型コロナウイルスの蔓延以降に注力してきた旧藤川邸「いにしによる」に関する人類学的な悉皆調査の報告と、そこにアーティストがどう関わったのか、そしてそれが塩江町にどのような意味を持ちうるのかという部分が様々な観点から叙述されています。
プロジェクトを一緒にやらせてきていただいた側として、本当にたくさんの学びや収穫がありましたが、ここでは2つだけご紹介します。
1つ目は、管見の限りこの本は1978年のRobert.J Smithの”Kurusu”以降、約50年ぶりとなる塩江町に関する人類学的・民俗学的な学術書だということです。網羅的ではなくとも、この1世紀の塩江の暮らしや歴史という文化を記録するという意味で、塩江町にとって大きな意味があります。この本が刊行されたことによって、塩江町上西地区の山間部に暮らす人の営みの痕跡と、それに触れた21世紀の人々がどのような反応をとったのかという記録が今後数百年残る可能性が生まれたというのは、町にとって非常に大切な可能性だと考えています。
もう1つは、ある地域の1つの家族の歴史を深く深く掘ることによって、地域の歴史の水脈に触れることができるという気付きでした。「いにしによる」は当初、コロナ禍で地域の方と交流することも難しく、また広域な調査もできないということで、ひとつの家のモノに限定して進めるという消極的な側面がなかったとは言い切れません。しかしながら、文化人類学者やアーティストの方々が丁寧に、じっくりとひとつの家族の歴史とそれにまつわるモノに向き合い、表現してくださったことで当初想定していなかったほど大きな広がりを持つことができました。ある地域の家族の歴史を深堀りすると、その家族が持っていたコミュニティの網を通じて当時の集落のあり方に近接していくことができるというだけでなく、その地域がどのようにしてより大きなコミュニティ、国家や世界に関わっていたのかを垣間見ることができます。断片的で、些細な物語を再構成することで見えるより大きな塩江の過去と今の姿に触れることができたというのが、とても大きな収穫でした。
とはいえ、これらの成果を塩江町内外にもっと広めていくことは必要だと思っています。こんなに良い本を贈っていただいたので、私たちはこれから様々な方法でこの果実をみんなで味わえるように、分け合っていく努力をしようと思っています。
この本の発刊にあたっては、文化人類学者の服部志帆さん、アーティストの小野環さん、横谷奈歩さんが中心となって調査から編纂まで行ってくださいました。本当に深く深くお礼を申し上げたいと思います。 そして何より、ずっと協力してくださった塩江町の皆様にもお礼を申し上げたいとおもいます。ありがとうございました。
「いにしによる」は今後も続いていきます。ゲストハウスとしての運用開始、アートスペースの公開も順次行っていきますので、どうぞ引き続きご注目くださいませ!